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電気主任技術者になるには 〜働き方の違い-選任か外部委託か〜

界隈では「電験ドリーム」なる言葉があるようです。

これは電験、正式名称「電気主任技術者試験」に合格した場合、独占業務に就けるため、学歴や職歴に関係なく高収入を目指せることから来ているのだと思います。

実際に、電験に合格し、独占業務に就こうとしている私なりの感想を述べたいと思います。

1.電験の難易度について

この記事を読んでいる方は、電験についてある程度の知識があると思います。

改めて説明すると、電気主任技術者試験には第一種から第三種の三種類の資格区分があります。

どれも受験条件はなく、誰でも申し込むことができます

試験についての詳しい内容は、私のブログにて紹介しております。

この中で、最も下位の資格である電験三種は人気が高く、毎年多くの受験生が受けています。

第三種電気主任技術者試験 受験者数の推移(電気技術者試験センター公表資料より筆者作成)

電験三種の合格率は例年10%に満たないため、難関資格として知られていました。

しかし近年、試験の内容に変化があり、合格率が上昇しています

直近の令和6年度下期の合格率は16.8%でした。

第三種電気主任技術者試験 合格率の推移(電気技術者試験センター公表資料より筆者作成)

過去問の使い回しが増えたことが一因のようです。

現場では技術者不足が続いており、その解消のために国が有資格者を増やそうとしているのだと思われます。

2.電気主任技術者の働き方について

電気主任技術者の働き方には、大きく分けて「選任」「外部委託」の二つがあります。

それぞれの働き方について説明します。

(1)選任

工場やビルに常駐して働く働き方です。

所属は、その工場の会社の社員や、管理を受託している管理会社の社員になります。

雇用契約にもよりますが、総務や管理部門に所属している場合、電気だけでなく他の業務との兼業になるケースもあります。

例えば、ビルの選任であればトイレの水が詰まったら呼ばれるだとか

工場の選任であれば工作機械の不具合を直さないといけないだとか

良く言えばオールラウンダー、悪く言えば便利屋として働く可能性があります。

一方、電気主任技術者としての実務経験は証明しやすいという特徴があります。

(2)外部委託

特定の建物では、電気事業法で電気主任技術者の選任が義務付けられています。

先程の選任としての働き方がそれにあたります。

しかし実際は、対象になる建物の9割は主任技術者業務を外部に委託しています

それがここで説明する、「外部委託」です。

電気主任技術者を社員として雇用するのは、会社の負担になってしまいます。

そのため、月に一度など定期的に点検に来てもらうことでコストダウンを図ることができるのが、この外部委託という制度です。

委託をするのは電気保安法人という承認を受けた会社と、技術者協会に所属する個人事業者にも委託できます。(協会に属さない個人事業者もいるそうです)

電気保安法人の場合は、点検をする電気主任技術者のことを「保安業務従事者」と呼びます。

個人の場合は、「電気管理技術者」と呼びます。

ただ、どちらも現場では「主任技術者」と呼ばれます。

個人で稼いでいる人がいるため、「電験ドリーム」という言葉ができたのだと思います。

3.実務経験について

(1)実務経験の証明

外部委託として働くには条件があります。

それが、免状取得後、実務経験5年というもの。(二種は4年、一種は3年)

実務経験を満たした後、最初の受託物件を経済産業省へ申請すると、J番号というものが付与されます。

J番号は保安法人の社員の場合で、個人で開業するときはF番号、東京電気管理技術者協会に所属していれば東京番号になるようです。

この実務経験が大きな壁となって、業界では技術者不足が問題となっています。

実務経験として認められる業務は以下の通り。いずれも「事業用電気工作物」についてです。

 建設・施工の工事に係る業務と、それを指導監督する業務

 保守管理業務(巡視点検、定期点検、修理、試験、測定等)と、これを指導監督する業務

 運転状態の監視、周波数及び電圧・電流の調整など、安定的、経済的に運転するための業務と、これを指導監督する業務

 事業用電気工作物に直接関係し、現場に常駐又は定期的に現場に出向く必要がある業務(書類作成など)

詳しくは経済産業省のホームページに記載されています。
外部委託承認制度 (METI_経済産業省 関東東北産業保安監督部)(外部リンク)

事業用電気工作物や自家用電気工作物については過去の記事で解説しています。

実務経験の年数の証明について、選任で働いた場合と、外部委託で働いた場合では少し異なります。

選任または選任の補助として働いた場合は、その働いた年数がそのまま実務経験になります。

資格を取る前に働いた期間も年数×2分の1で加えられます。

一方、電気保安法人で補助として働いた期間を実務経験にする場合は、点検に行った件数が21件で1カ月と計算します。

選任として働く場合は、会社に所属していたことが証明できればいいのですが

電気保安法人で保安業務の補助をしていた場合、受託先との契約書の写しが必要だったりします。

また、21件に満たないと5年以上働いても実務経験を満たせない場合があります。

そして注意が必要なのが、自社がお客様と直接契約しているのではなく、他社の下請けとして年次点検をしているだけでは、実務経験になりません。

このように電気保安法人での実務経験を証明するのは少し面倒なのです。

(2)実務経験の短縮

講習を受けることで実務経験を短縮できる制度があります。

ⅰ 保安管理業務講習

全国の保安協会や保安法人で行っている講習で、修了すれば必要な実務経験を3年に短縮することができます

対象は第三種又は第二種電気主任技術者免状を取得している人です。

費用は10万円程度なので、会社員として働いているならば捻出できない金額ではないでしょう。

講習の内容は、座学(対面またはオンライン)が23時間、実技が6時間です。

対面の場合、5日間で講習は終わります。

試験などはないので、講習を受ければ実務経験を短縮できます。

経済産業省が保安管理業務講習実施者を公開しています。
保安管理業務講習実施者一覧(外部リンク)

ⅱ 保安管理業務訓練

名前が似ててややこしいのですが、こちらは「訓練」です。

保安管理業務講習ではどうしても実技が不足してしまうため、それを補う目的で始まりました。

こちらの訓練を受講すると、必要な実務経験を2年に短縮できます

受講する条件としては、電験三種、電験二種を取得し保安管理業務講習を修了している、または電験一種を持っていることです。

所要時間は実習が70時間、座学が5時間ということで実習中心となっています。

そのため期間は2週間ほどになり、費用も40万円以上と高額となっています。

1年間の短縮にここまで費用と時間をかけるのが良いかは、意見が分かれそうなところです。

4.外部委託で働くと稼げるのか?

電気保安法人の保安業務従事者はその会社の社員として働くので、決められた給料をもらうことになります。

求人を見ていても、実務経験を満たしている場合は多くの給料を受け取ることができます

一方、独立開業した場合はいくらくらいもらえるでしょうか。

(1)換算係数という縛り

保安法人であるN社と契約して個人の技術者として働いている人の話では

他の技術者の点検を代行した分を含めて、年間900万円ほどは報酬があるということでした。

税金が引かれれば、手元に残るのは600万円ほどでしょうか。

令和6年の民間給与実態統計調査によると、正社員の平均年収が545万円のため、それほど変わらないようです。

では、頑張って受託先を増やせば、もっと稼げるようになるのでしょうか。

答えはNOです。ここに外部委託で稼ぐ大きなハードルがあるのです。

それは、技術者一人当たりが担当できる物件は、換算係数が33点までというもの。

これは、一人の技術者が物件を多く抱えすぎて、対応が疎かにならないようにするために設けられた制限です。

契約する物件の設備容量に応じて換算係数が定められています。

設備容量換算係数
低圧0.3
高圧64kVA未満0.4
64kVA以上150kVA未満0.6
150kVA以上350kVA未満0.8
350kVA以上550kVA未満1.0
550kVA以上750kVA未満1.2
750kVA以上1,000kVA未満1.4
1,000kVA以上1,300kVA未満1.6
1,300kVA以上1,650kVA未満1.8
1,650kVA以上2,000kVA未満2.0
2,000kVA以上2,700kVA未満2.2
2,700kVA以上4,000kVA未満2.4
4,000kVA以上6,000kVA未満2.6
6,000kVA以上8,800kVA未満2.8
8,800kVA以上3.0

平成十五年経済産業省告示第二百四十九号(電気事業法施行規則第五十二条の二第一号ロの要件等に関する告示)より筆者作成

そして、この点数をもとに外部委託の単価が決まっている場合が多いです。

これは技術者一人当たりの収入に制限があるようなものなのです。

そのため、他の技術者の分も点検したり、年次点検の応援に行ったりしないと、なかなか収入を上げるのは難しそうです。

これは、電気保安法人の場合も同じです。外部委託の事業での収益に限界があることを意味します。

そのため、保安法人の中には、監視システムや設備更新工事など事業を広げている会社もあります。

(2)換算係数を節約する方法

換算係数を節約して、多くの物件を受け持てるようにする方法があります。

キュービクルなど変電設備に取り付け、B種接地線に流れる電流値を常時監視することができる装置があります。

一般的に絶縁監視装置と呼ばれるものです。

絶縁監視装置(ムサシインテック 監視王Ior)

この装置を取り付けることで、毎月の点検を隔月にでき、その物件の換算係数を0.6倍に減らすことができます

そのため、今では多くの現場で絶縁監視装置が取り付けられていると思います。

絶縁監視装置の取り付けは、無料になることが多いようですが、設置費用がかかったり、リース契約にする会社もあるようです。

5.まとめ

電気主任技術者の働き方について、主に外部委託として働くために必要な情報を記載しました。

技術者不足ということもあり、試験も実務経験も緩和措置が続きます。

今後も、新しい情報に注意していきたいと思います。

ポイント

 電気主任技術者としての働き方は、現場常駐の選任になることと、保安法人や個人で外部委託として働く二通りある

 外部委託として働くには実務経験が必要(三種は5年、二種は4年、一種は3年)

 実務経験は講習や訓練で短縮することができる(3年または2年)

 外部委託では担当できる物件数に制限が設けられている(換算係数33点まで)