コラム

【独り言】脇に追いやられたエネルギー問題について(2025年参院選)

先日の参議院選挙では、既存政党が議席を失い、新興政党が議席を伸ばすことになりました。

今回の争点は主に、政治不信、減税、コメ問題、外国人政策などだったかと思います。

電気保安業界に携わるものとしては、エネルギー政策について訴えている方が少なかったことが気になります。

政治的な話はさておき、ここでは原発について考えたいと思います。

1.原発普及への歴史

原発(原子力発電所)では、ウラン原子の核分裂によって生まれる熱エネルギーを使って、蒸気タービンを回転させることで発電しています。

19世紀末にX線が発見されてから科学者たちは放射性物質の研究に没頭していきました。

素晴らしい功績を上げノーベル賞を受賞したキュリー夫人などは、放射能の影響で亡くなったという意見があることは有名ですね。

そして1945年、発電という用途よりも先に爆弾として核分裂による膨大なエネルギーが世界中に知れ渡ることになります。

アインシュタインのE=mc2※なんかは、原爆がわずかな質量でも膨大なエネルギーを秘めていることを表現するのに使われますね。

※E(エネルギー)=m(質量)×c(光速)2 光速は秒速299,792,458m

その後、世界中で原発が建造されることになります。

1951年にアメリカで実験的に発電が成功すると、1954年にはロシアのオブニンスク原子力発電所で実用化されます。

1956年にイギリスのコールダーホール原子力発電所で初の商用利用が始まります。

日本では1963年に東海村の動力試験炉、JPDR(GE製)で発電に成功し、1965年、東海発電所で初の商用運転を開始しました。

2.原発を推進することについて

私の子供のころ教わった記憶では、電気のうち原発で発電している割合は約30%でした。

しかし2011年の東日本大震災以降、原発は再稼働が遅れていて、政府の資料によると現在の原発の占める割合は13%ほどにとどまっています。

一方、ウクライナ問題や中東問題、円安など外的な要因により、電気料金の高騰が続いています。

賃上げは物価上昇に追いつかず、実質賃金は低いままです。

このような状況では、原発再稼働による電気料金高騰の抑制、電力の安定供給を望む声が高まるのは無理ありません。

しかし、震災の前は原発についてはネガティブな意見のほうが目立っていたような気がします。

私自身は刈羽原発の見学に行ったり、大学で原発に関する授業を受けたので、原発の問題についてはフラットに考えたいと思います。

(1)原発再稼働・小型炉の新設の利点

各政党の主張を見ると、原発については再稼働に肯定的な意見が目立ちます。

原発の再稼働については、電気料金の高騰を抑える効果が期待できます。

また、原発は発電時に温室効果ガスを排出しないため、地球温暖化対策につながります。

家計にやさしく、地球にやさしい電源とも言えそうです。

また、政府も方針を示しているように次世代の小型モジュール炉(SMR)の実用化を目指しています。

日本原子力研究開発機構のページによると、SMRの特徴としては「小型で低出力」であることを活かし、事故時に原子炉が「自然に止まる」、「自然に冷える」といった固有・受動の安全性が高まるとしています。

原発についての懸念事項が災害時の安全性であるなら、この主張は重要な点と言えそうです。

日本には資源が少なく、発電に使う石炭、天然ガス、ウランなどはほぼ輸入に頼っている状況です。

現在のように火力発電(石炭、天然ガス)に頼りすぎると、燃料の入手が難しくなった時、電力需要の増加に対応できなくなる恐れがあります。

ウランも100%輸入に頼っているとはいえ、石炭や天然ガスよりも多く存在しているとされています。

エネルギー安全政策の観点からは、原発再稼働や新設は理にかなっているようにも思えます。

また、日本は非核保有国で唯一プルトニウムの保有を許されています

これは商用利用、つまり発電に使うことを前提なのですが、実際にはプルトニウムを混ぜたMOX燃料の消費は多くないのです。

世界から見れば、日本が大量のプルトニウムを保有しているのは核兵器開発の為ではないか、と疑いの目で見られかねません。

しかし、原爆投下から80年、そんな大昔の技術であれば多くの先進国ですぐに開発できそうです。

世界から核兵器がなくなればいいと思いますが、原発を運転させ、プルトニウムを保有していることは国防の観点からも否定すべきでないように思います。

(2)伏せられている重大な問題点

一方、原発の問題として大きいのは、最終処分場が決まっていないことと、無害化に途方もない時間が必要ということです。

使用済み核燃料のうち廃棄する部分については、ガラスと混ぜて固め、青森県六ヶ所村の中間貯蔵庫の地中で30〜50年間眠らせることになっています。

固めたばかりの使用済み核燃料の放射線量は、1時間あたり1500シーベルトと、人が防護なしに近づけば10数秒で死に至る極めて高いレベルと言われています。

ちなみに震災後の帰宅困難区域の放射線量は1年間で0.05シーベルトとかです。

そして1000年経つと、容器の表面で1時間あたり0.15ミリシーベルト程度まで低下します。

これは医療機関で胸のエックス線検診を2、3回受けたのと同じ程度の被ばく量だといいます。

最終的には自然界のウランとほぼ同じくらいの放射線量を目指しますが、これにはなんと数万年の時間が必要とのことです。

こんな扱いにくいものが最終処分場が決まらない中、60年以上もの間使用され続けているのです。

世界で原発を運転している国と地域は31あります。

しかし最終処分場が決まっているのは、フィンランドとスウェーデンの2か国のみです。

いくら国が安全に処理するといっても、その危険性が有名なため、感情的に受け入れにくいことは理解できます。

3.原発政策について思うこと

原発の技術は人類が生み出した画期的な技術であることに異論はありません。
多くの科学者、研究者によって確立された技術であり、生活に不可欠なものとなっているのは事実です。

今後はデータセンターなどより多くの電力が必要になる中、アメリカのトランプ政権でも火力や原子力発電の増強ということを掲げています。

日本は国際社会での存在感を示すためにも、原発建造技術も自然エネルギーへの転換もどちらも捨ててはいけないと思います。

一方で、原発によるリスクについての正しい知識は発信していくべきだと思います。

新型炉の研究開発もいいのですが、同時に、決まらない処分場や限界に近づいている中間貯蔵庫、莫大な国費をつぎ込んだ高速増殖炉についてなど、不都合な真実についても議論を進めないといけないと思います。

今回当選した議員さんたちには、このあたりの議論が進むことを期待しています。

【参考URL】

・原子力発電(Wikipedia)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB

・経済産業省 資源エネルギー庁 結果概要 【2025年3月分】
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2024/0-2024.pdf

・小型モジュール炉(SMR)開発の動向と原子力機構における新型炉開発の取組(2022.09.09掲載) _ 特集 _ 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉に関する研究開発
https://www.jaea.go.jp/04/sefard/ordinary/2022/2022090901.html

・原子力発電で使い終わった燃料はどうなるの? _ 東北電力 ホームページ
https://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/safety/qa/q3_2.html

・【Q&A】「核のごみ」とは?その危険性は?最終処分場どう決める?原子力政策最大の課題 そもそも解説 _ NHK _ 「核のごみ」処分場選定
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240510/k10014445521000.html